秋はコノフィツムの開花季ですが、植え替えの適期でもあります。そして、掲示板で時々話題になったり、初心の方からメールで問い合わせをいただくのが挿し木の方法です。これまでにいただいた挿し木に関しての疑問点をまとめると、おおよそ以下の通りです。
1.茎をどこまで切り詰めたら良いのか? 2.球体がもぎ取れてしまったら諦めるしかないのか? 3.茎の芯が白いところまで切り戻すとはどういうことか? 4.切り口を乾燥させてからでないと挿してはダメか? 5.発根用の土と栽培用の土の使い分けは? 実のところ私は適当にやっているので、こうやらねば絶対ダメということは無いと思っています。初心者の方は、「お作法」をキッチリ守らねばならないと思い込む傾向があるようですが、最低限注意すべき事さえ守っていれば、あとはケースバイケース、個人の都合で臨機応変、試行錯誤でやるのが、コノフィツムと長く楽しく付き合う秘訣だと 思います。 とは言うものの、「何事も経験を積むのが大切だ」と言い切ってしまうのも何ですし、簡単な実験で適した条件が判ればそれに越した事はありません。そこで、上記1、2、4について、簡単な比較実験を始めてみました。 実験材料は・・↓ タビ型園芸品種の'嵐山'です。巻き花という事でしたが、一度も巻いた事が無いので、札違いでしょうか? 植え替えて何年も経過し、茎が長く姿が乱れてしまったため、今回の実験台になってもらいました。まずは地際で切り取って適当に分割します。 そして、最初の疑問、茎の長さによる発根率の違いを明らかにするため・・↓ 左端は2つ目の疑問「茎がもぎ取れたら・・」どうなるかを明らかにするため、意図的に球体から茎をもぎ取ってしまったものです。左から2番目より順に茎の長さを、0mm、3mm、6mm、10mmとしました。 これら挿し穂を屋内で2日間乾燥させた後、十分水分を含ませた赤玉土微粒(粉を抜いた芝の目土)に挿しました。球体の下部1cm弱を土に埋めて倒れないようにしました。↓ また、切り口を乾燥させずに挿してはダメかという疑問に答えるため、茎3mmのものを切ってすぐに湿った赤玉土に挿しました(左上の小さな写真)。 さて、茎の芯ですが・・↓ 茎の内部が見やすいように斜めに切ってみました。 中心の白く見える部分(中心柱=維管束系を含む)が水分や養分の通り道で、細胞が生きていれば白っぽく見えて、瑞々しいものです。芯の部分が茶色くなっている場合は細胞が死んでおり、多くの場合乾いて縮んでしまっています。周囲の茶色い部分は皮層がコルク化したもので、水分等を運ぶ役割はありません。挿し木で根が発生するのは内部の白い部分からですので、芯が白いところまで切り戻す必要があるというわけです。休眠明け、球体が大きくならない時は茎が枯れてしまっている場合が多く、そしてほとんどの場合、茎が球体直下まで枯れてしまっています。 最後に挿し木用土です・・ 慎重派の方は赤玉土単用、あるいはバーミキュライトや軽石系用土を混合した無機質のみの用土に挿し、発根後植え替えるようです。挿し木用土には肥料分は入れません。私は植え替えが面倒なため、栽培用土(赤玉+鹿沼+バーミキュライト+腐葉土)に直接挿してしまいます。元肥としてマグアンプKも入れます。コノフィツムの種類によって発根の難易度が違うようですから、慣れないうちは一般的な挿し木のセオリー通り、無機用土で発根させてから植え替えた方が安心かと思います。但し、発根したての根はとても弱くて茎から取れやすいので、慎重にやさしく扱いましょう。ちなみに、培養土を乾燥させておくと全く発根しません。この辺は、セダムやエケベリア等の葉挿しと違うところです(2007/10/10記)。 以下2007/10/22追記 挿し木から約2週間経ったところで途中経過を紹介しておきましょう。 下列左端の「茎もぎとり」区では、この1週間で2本が灰色っぽく変色して腐ってしまいました。他はどの実験区でも違いは見られず、球体をちょっと指でつついて見ると抵抗があるので、既に発根が始まっているようです。次の日曜日に掘り上げて発根具合を確認することにしましょう。 以下2007/10/27追記 挿し木後18日経ちましたので、掘り上げて発根具合を調べました。低温の日が多かったためか、発根しているものでも根の長さが1~2mm程度の個体もあり、発根している(+)か、発根していない(ー)かは、ルーペで確認しました。1本でも根が出ているものは「+」としました。 1.切り口を乾燥させる必要性について 茎は3mm残して切り詰め、すぐに湿った土に挿したもの(乾燥0日)と、室内で2日間切り口を乾燥させてから湿った土に挿したもの(乾燥2日)を比較しました。 切って直ぐに挿したものは1個しか発根していませんでした。3mm+乾燥2日は、私がいつもやっている挿し木方法ですが、発根個体3個にとどまりました。 2.茎の長さについて 残す茎の長さが長くなる程、発根率が悪くなる傾向にあるようです。 0mmと3mmの差はあまり無いようで、球体ギリギリまで切り詰めても構わないようです。茎を長く(10mm)残したものは、18日間では全く発根しませんでした。 茎をもぎ取ってしまったものも2個途中で腐ったものの、↓ 2個発根しており、それほど悪い成績ではありません。植え替えの時に間違ってもぎ取れてしまっても、一応挿しておけば発根する可能性があるということですね。茎が無いのに発根するというのは不思議な感じがしますが、実は球体の内部にも若い茎が出来ているので、そこから発根するのでしょう。 どんなふうに発根しているのか、切り口を観察しました。↓ 白矢印で示したのが根です。切り口の円周に沿って根が出ているのが判ると思います。茎の中心部(髄)には維管束がありませんから、ここからは発根しないわけです。 さて、10mmのものはどうなっているのでしょうか?茎の縦断面を観察することにしました。 まず気がつくのは、切り口から2mmほどは腐ってしまっているように見える事です。茎の内部が白く確実に生きていると思われるのは、球体付け根から4~5mmくらいまでで、その先は生きているかどうか判然としません。切り口の腐りが徐々に球体側に進んでいる途上にも見えます。また、長く残した茎の表皮に白いカビが生えていて、菌糸が培養土にまで生長した結果「土団子」状になっている個体が、6mm区、10mm区で複数見られました。古くなった茎の表皮やコルク層は死んだ細胞から出来ており、茎を長く残した区では、これがカビの栄養源になったのでしょう。カビがあまり蔓延ると、健康な部分にまで害を及ぼすことが考えられ、このことが6mm区、10mm区での発根率の悪さにつながっているのかも知れません。老化が進んだ部分からは発根しにくいという可能性もあるでしょう。いずれにせよ、茎を長く残しておくことは、害があってもメリットは無いと考えて良さそうです。つまり、芯の白い部分云々は気にせず、球体ギリギリまで切り戻して挿すのが良いという事になります。 <結論>*) 1.挿し木する時は、茎を球体ギリギリ〜3mmくらいに切り詰める。 2.切り口は2日ほど乾燥させた方が良さそう。 3.もげてしまった球体も、挿しておけば半分くらいは発根する。 *)注 今回は1品種だけを材料にした実験ですので、他の種類に同じ事が当てはまるかどうかは判りません。いくつかの系統で試してみる必要がありそうです。 茎の長さについては、0mm区、3mm区でも発根しない個体がありますが、これは挿し木から観察までの期間が短かった(18日間)ためと考えられ、これまでの経験から、挿し木から30日後には発根率がほぼ100%に達すると思います。10mm区でも、水を求めて茎の途中から発根するものと思われます。ただこの時、コルク化した層が邪魔になるため、発根までに相当の時間がかかります。 切り口の乾燥日数については、今回は「2日間」だけの実験ですから、これが最適値かどうかは不明です。過去に1週間以上放置したものを挿したことがありますが、問題なく発根しました(良し悪しは別として)。反対に、乾燥無しで湿った土に挿しても腐ってしまわない事が判ったのは、私にとって今回の実験の1つの収穫でした。
by conocono123
| 2007-10-27 23:18
| 栽培方法
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